研究力強化戦略室の人材育成タスクグループでは、研究教育改善室人材育成委員会と協力し、核融合科学研究所の若手研究者による、自発的な研究プログラムの立ち上げフェイズの支援を行っています。この事業による研究経費の支援は単年度ですが、研究の継続期間は一年のみではなく、初年度の支援の経費を元手として、次年度以後も研究が継続されることを想定しています。また次年度以後の研究経費は、所外の競争的資金や産学連携などにより獲得することが望まれます。
2024年度は、次の研究提案に対して、研究の立ち上げフェイズの研究経費を支援しています。
境 健太郎 「超高強度レーザー生成プラズマの自己散乱の理解と非平衡プラズマ診断」
超高強度レーザーを用いて相対論的なプラズマフロー・高輝度な放射場を作ることができるため、ガンマ線バーストやパルサーなど極限的天体現象の模擬実験が可能になると期待されている。しかし、超高強度レーザーのパルス幅は非常に短く (典型的に数10 fs)、その時間スケールを測る計測手法は限られているため、仮に超高強度レーザーで天体現象を模擬しても見たい物理量を測る術がないことがしばしばある。そこで、超高強度レーザー自体の散乱光を使ったイメージング・分光計測により、高速のプラズマ密度・磁場等の診断を行う。<<< もう少し詳しく >>>
2023年度は、次の研究提案に対して、研究の立ち上げフェイズの研究経費を支援しました。
(1) 川口晴生 「トポロジカル光波によるレーザー微細構造形成の学理の探究」
本研究では2次元的な強度・偏光空間分布を持つ新しい光波である「トポロジカル光波」を用いて様々な物質に対するレーザー微細加工を探求し、回折限界を超えた超解像微細構造形成とそれに基づく新規フォトニックデバイス創発を行う。そして、これまで散逸的に理解されてきたレーザーによる微細構造形成の学理を「光と物質の相互作用」と「熱流体力学」に立脚して再構築する。多様な形態を持つトポロジカル光波を用いてレーザー微細構造形成の学理の解明と微細構造制御による新奇デバイス開発などアプリケーションへの展開を目指す。<<< もう少し詳しく >>>
(2) 太田雅人「相対論的プラズマ電場を用いた量子物性の探索」
適切な振幅・周波数の電場を強相関電子系に印加する事で、エキゾチックな量子現象(光誘起超電導等)が理論的に予言されている。本研究では、高強度レーザーと固体の相互作用で生じる相対論的プラズマ電場(電場強度:ギガボルト〜テラボルト毎センチメートル、周波数:テラヘルツ)を用いる事で、未開拓のパラメータ領域における量子物性の探索を行う。その際、非線形光学を用いた超高速電磁場分布計測を実施する事で、今まで理論・数値計算でしか議論されてこなかった、相対論的プラズマ電場の実験的検証も実施する。<<< もう少し詳しく >>>
2022年度は、次の研究提案に対して、海外長期派遣の経費または研究の立ち上げフェイズの研究経費を支援しました。
(1) 後藤勇樹 「電子サイクロトロン運動とその放射場の解の探求」 (海外派遣支援)
電子サイクロトロン(EC)運動とそれに起因する放射過程は本質的に古典的な現象であり、減衰過程も含んでいる。しかしながら、この減衰過程を記述するために提案されたLorentz-Abraham方程式は、運動方程式の中に電子の位置の時間に関する3階微分項を含むため非物理的な解を示す。そこで本研究課題では、この問題を古典的リウビル方程式から出発し、リウビル演算子の拡張ヒルベルト空間における複素固有値問題として論じる。これにより、時間対称性を破る減衰解が時間の向きに対称な物理学の基本方程式から演繹されることが期待される。プラズマ中に満ちあふれているEC運動に再注目し、これまで未解決とされてきた物理学の諸課題に取り組む。<<< もう少し詳しく >>>
(2) 小林真「水素超透過による材料内過飽和量水素の移行現象の理解と応用の創出」 (研究経費支援)
イオン注入により材料内へ導入した水素の移行現象を、不純物を用いた表面改質により制御することで、平衡状態では不可能な過飽和量の水素の流れを材料内で形成させる。続いて、表面不純物層界面を移動する水素移行現象の定量、過飽和量水素による材料微細構造発展を実験的に調べ、素過程の結合として現象を表現しプラグラムに記述することで定式化、予測可能とする。本プログラムと、水素溶解度・拡散係数などのデータベースに基づき材料を選定することで、先進的水素過吸蔵合金の創生、高効率水素排気ポンプ、トリチウム除染手法の構築へ展開する。<<< もう少し詳しく >>>
(3) 能登裕之「変態超塑性を応用した革新的成形法の創生」 (研究経費支援)
低放射化フェライト鋼は、優れた耐熱性と耐放射線特性を持つ核融合炉ブランケット用先進材料であり、核融合研究を推し進める国々において開発されている。一方で、その機械的特性により、非常に硬く、「難加工性」が懸念されている。本支援プログラムでは、これまでの加工法とは一線を画する「変態超塑性」を利用した革新的な加工技術を提案した。この発想は核融合工学分野だけではなく、様々な先進材料の加工に苦心する工学分野への波及も期待している。<<< もう少し詳しく >>>
2021年度は、次の三つの研究提案に対して、研究の立ち上げフェイズの研究経費を支援しました。
(1) 川手朋子 他1名「非等方場中にあるプラズマの微細磁場構造の理解」
天体プラズマ、核融合プラズマ内部に存在する、微小な磁場を計測することにより、微細磁場構造の理解を進める。分光的手法により遠方からの測定を可能にし、また磁場強度としては0.0001テスラの測定を目標とする。磁場測定の原理は、レーザー吸収分光法を用いたドップラーフリー分光によるゼーマン測定と、ハンレ効果による磁場測定を併用する。計測の原理実証と計測手法の改善のために、小型の高周波放電装置を製作する。放電装置とレーザー吸収分光装置を飛騨天文台の太陽観測望遠鏡に持ち込み、ハンレ効果による天体磁場観測のための検証実験を行う。<<< もう少し詳しく >>> 報告書(2022年3月)
(2) 上原日和
「フェムト秒レーザーを用いた光デバイス開発に基づく萌芽的研究課題の創出」
(3) 辻村 亨 「光渦を用いた新しい電子サイクロトロン加熱」
螺旋状の波面を持つ光渦と呼ばれる特異な光が軌道角運動量を持つことで、異方性の誘電媒質である磁化プラズマ中での伝播がどのように変化するのか、という学術的問いが生まれた。その純粋な問いに対して、研究提案者は、磁化プラズマ中における光渦の伝播特性に関する基礎的な理論を構築した。本研究課題では、従来の平面波を基礎にした電子サイクロトロン波を拡張した伝播理論から示唆される、光渦の新しい伝播機構を利用した高効率なプラズマ加熱を大型ヘリカル装置で実験的に検証する。本事業を足掛かりに、新しい放射光源としての光渦の発生・伝播・物質との相互作用に関する知見を深め、光渦を自然科学研究に積極的に活用していく道筋を開拓する。<<< もう少し詳しく >>> 報告書(2022年3月)